前立腺肥大症

前立腺とは男性にしか存在せず精液の一部である前立腺液を作っている臓器です。前立腺液の役目は精液中の精子を守ったり、その運動を助けたりする役目をしています。

前立腺は膀胱のすぐ下にあり、尿道をドーナツのようにぐるりと囲んでいます。正常な前立腺は栗の実くらいの大きさで、重さは成人男性で20g前後です。前立腺は大抵の男性が50歳を過ぎた頃から肥大して大きくなります。肥大すると囲んでいる尿道を圧迫してしまうので尿が出にくくなります。

前立腺肥大症画像

症状前立腺肥大症は肥大した前立腺によって排尿障害が起こってくる病気です。
病期によって症状が変化します。
第1期  刺激期(刺激症状)
1. トイレが非常に近くなった
2. トイレに行った後、すぐにまた行きたくなる
3. 夜間に何度もトイレに起きる
4. 急いでトイレに行かないと漏れそうになる
などといった症状が刺激症状にあたります。これは、肥大した前立腺が尿道や膀胱を圧迫し刺激するために生じます。特に夜間の頻尿は前立腺肥大症の初期の症状として、比較的よく認めます。他に、尿道や股間の不快感、圧迫感など訴えられる方もいます。

第2期  残尿発生期(閉塞症状)
1. 尿意をもよおしてトイレに立っても尿がなかなか出てこない
2. 排尿をする時にいきまないとなかなか排尿できない
3. 排尿の途中で尿がとぎれてしまう
4. 排尿の最後にチョロチョロと尿が出て尿ギレが悪い
5. ズボンにしまった後にチョロチョロと尿が出てズボンを汚してしまう
などいった症状が閉塞症状にあたります。これは肥大した前立腺のため尿道が左右より圧迫され細くなっているために生じます。庭の草木にホースで水をやるときにホースを足で踏みつけると、水が出なくなったり、水の線が非常に細くなったりするのと理屈は似ています。ひどくなってくると、排尿しても尿を膀胱から出し切ることが出来なくなり、残尿が出現します。

第3期  慢性尿閉期(尿閉)
さらに症状が進むと尿が全くでなくなります。徐々に出なくなる人もいますが、風邪薬の内服(風邪薬の一部には排尿する力を弱くする作用があるものがあるため)、飲酒(前立腺に浮腫という、むくみが生じるため)、便秘などをきっかけに突然でなくなる人もいます。尿が出なくなり、膀胱に尿が大量に貯留し、下腹部がパンパンに張り、非常に苦しい状態です。このような状態の時はすぐに病院を受診してください。

診断方法

前立腺肥大症の症状を判定するために“国際前立腺症状スコア”と呼ばれる問診表をよく用います。前立腺肥大症の症状に心当たりのある方は一度、自己診断をしてみてはいかがでしょうか?

尿路の症状にはさまざまな要素が関係しているため、この点数だけでは完璧な評価はできません。しかし、下記の合計点数が7点以上であれば前立腺肥大症の可能性が出てきます。一度、泌尿器科を受診することを勧めします。

<国際前立腺症状スコア>

最近1ヶ月間においてなしまれに
(5回に1回未満)
たまに
(2回に1回未満)
ときどき
(2回に1回くらい)
しばしば
(2回に1回以上)
ほとんど
いつも
1おしっこをした後尿がまだ残っている感じがありますか?012345
2おしっこをした後、2時間以内にもう一度トイレに行くことがありますか?012345
3おしっこの途中で、尿が途切れることがありますか?012345
4尿意を我慢できないでもらしたり、トイレに急ぐことがありますか?012345
5おしっこの勢いが弱いと感じるのは、どのくらいの頻度でみられますか?012345
6おしっこの時にいきむことがありますか?それはどのくらいの頻度でみられますか?012345
7一晩に何回くらいトイレに起きますか?0回1回2回3回4回5回
治療症状にあわせて治療法を選択します。
前立腺肥大症の治療は1.経過観察2.薬の内服による薬物治療3.手術といった治療を病気の程度にあわせて選択します。
1.経過観察
症状が軽い、検査の結果で問題なさそうな場合はそのまま経過観察することもあります。
2.薬物治療
下記の示すような薬物治療にて症状を軽減することが出来ます。ただし、薬物治療は前立腺の肥大を根本から治すといった治療ではなく、症状を和らげてやるという対症療法にあたります。内服する薬剤は大きく分けて以下の3種類あります。
α受容体遮断薬
この薬は、前立腺や尿道の筋肉をリラックスさせることにより、尿が出にくいといった前立腺肥大症の諸症状を改善します。現在、前立腺肥大症の治療に最もよく使われている薬です。
抗男性ホルモン剤
前立腺の肥大は男性ホルモンの作用によっておこるとされています。そのため、男性ホルモンの作用を抑えることにより、前立腺を小さくすることを目的とした薬です。治療の効果が出るまでに数ヶ月かかります。副作用として、勃起不全になることがあるほか、前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSAを減少させる作用があり、前立腺がんの発生を隠してしまう可能性があります。その為、この薬を内服している期間は前立腺がんの合併に特に注意をはらう必要があり、現在では抗男性ホルモン剤の投与はごく限られた患者さんのみとなっています。
植物製剤、漢方薬
これらの薬は比較的古くから前立腺肥大症の諸症状の改善を目的に用いられています。作用は、前立腺部のむくみ(浮腫)や、うっ血の改善で、効果は他の薬と比べると比較的マイルドですが、副作用も少ない薬です。
3.手術療法
お腹を切らない手術
薬物治療では、症状の改善が望めない場合には、手術による治療が必要となります。
手術というとお腹を切開するイメージがありますが、前立腺肥大症に対する手術の最もスタンダードな方法は、全くお腹を切開せず行います。これは経尿道的前立腺切除術(TUR-P)と呼ばれる方法で、内視鏡という非常に細いカメラで見ながら行うであるため、全く腹部に傷はつきませんし、術後の痛みも軽度で、早期退院が可能です。よほど前立腺が大きくなっていない限りはこの方法で行い、お腹を開いて手術することはあまりありません。
<TUR-P(経尿道的前立腺切除術)>
麻酔は通常は腰椎麻酔と呼ばれるいわゆる下半身のみの半身麻酔で行います。手術は内視鏡という非常に細いカメラをペニスの先の尿道の出口より挿入して行います。尿道から膀胱へ向かってさかのぼっていくと、膀胱の手前の部分が前立腺になります。通常、肥大した前立腺が尿道の内側に突出しているため、その部分の尿道が非常に細くなって見えます。突出している所を電気メスで切除し、狭くなっているところを拡げてやります。ちょうど、下水管などがつまってしまった所をブラシでゴシゴシこすってやる事で流れが良くなるのと感じは似ています。(TURP図参照)
手術時間は麻酔を含めても、だいたい60~90分程度です。(前立腺の肥大が大きければ大きいほど手術時間は長くなります)

TUR-P(経尿道的前立腺切除術)画像

術後は、尿道にカテーテルが1~3日留置されます。血尿の状態などにより留置期間を数日延長する場合がありますが、カテーテルが入ったままでも手術翌日から、自由に動くことが可能になります。
また、当院では最新のバイポーラ前立腺核出術(TUEB)も行っています。これはTUR-Pと同様に内視鏡を用いた術式ですが、TUR-Pが電気メスで少しずつ削っていくのに対し、バイポーラ前立腺核出術は、肥大部分を丸ごとくりぬいて取り除く方法です。この術式は出血が少ないというメリットがあります。
術中の合併症一般的には出血による低血圧や水中毒(低ナトリウム血症)による一時的な意識障害や嘔吐などの消化器症状がみられることがあります。原因は非電解質溶液を用いる為です。また、水中毒に関してはナトリウムの補充と利尿剤を使用することにより改善されます。
当院ではTURisという機械を用いている為(生理食塩水にて手術を行う)、低ナトリウム血症はほとんど見られません。

切除の際に前立腺被膜穿孔や尿道損傷をきたす場合もありますが、ほとんどがカテーテル留置により自然に改善します。
術後の合併症・切除部位からの再出血(術後2~3週間以内が最も多い)
・尿路感染(腎盂炎や精巣上体炎など)
・逆行性射精(射精の際、精液が膀胱へ戻ってしまうこと。膀胱に精液が逆流しても身体に異常をきたすことはありません)
・性欲減退(インポテンス)
・尿道狭窄や膀胱頚部硬化症(膀胱の出口が狭くなること)をきたすことがあり、後に拡張を要することがあります。
退院後の生活術後出血はこんなことで起こります。気をつけましょう!
・血尿がおさまるまでの2週間は飲酒や激しい運動は禁止です。

自転車やバイクの乗車は2ヶ月間禁止です。
・理由=サドルが手術部位を刺激し出血が起こるためです。
・硬い椅子でのデスクワークも控えましょう。
・2ヶ月間は温泉、サウナは控えましょう。
・性生活は2ヶ月間避けましょう。
・排尿時、茶色のかたまりやフワフワした物が出ますが問題ありません。
・血尿や感染予防のために水分は1500ml~2000mlを目安にとりましょう。

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前立腺がん

前立腺とは男性にしか存在せず精液の一部である前立腺液を作っている臓器です。前立腺液の役目は精液中の精子を守ったり、その運動を助けたりする役目をしています。

前立腺がんは食生活の欧米化により急速に増えています。
アメリカではすでに10年ほど前から、肺がんを抜いて、前立腺がんが男性のがんの中で発生率第一位となっています。欧米とくらべると日本はまだその数が少ないのですが、最近は急カーブを描いて患者数が増えており、近い将来、日本でも同じ道をたどるのは明らかだと専門家はみています。その理由は第一に、高齢人口の急増です。前立腺がんは、高齢者のがんといわれ、患者さんの、約90%が60歳以上の人で占められています。今、日本はまさに高齢化社会へと突入しており、対象となる人が今後ますます増えることは明らかです。第二に、日本人の生活スタイル、特に食生活が動物脂肪、動物性たんぱくの多い欧米型になってきていることがあげられます。

症状
初期には自覚症状がほとんどありません。
前立腺肥大症と 前立腺がんはまったく違う病気ですが、やっかいなことに尿の出が悪い、トイレが近いなどの症状はほとんど同じです。健康な男性でも50歳を過ぎたころか ら、加齢現象として前立腺の肥大が徐々にみられるようになり、尿の出が悪くなる、トイレが近い、排尿後も尿が残っている感じがする、尿の切れが悪いなど の症状が出始めるので、なかなか前立腺がんだと疑って受診する方は少ないのです。前立腺がんは骨に転移しやすいので、そのまま放置した結果、下肢や腰の痛 みを訴えて整形外科を訪れ、検査の結果、前立腺がんの骨転移と診断され、はじめてがんだと分かるケースも多いのです。
前立腺がんは進行が遅く、薬がよく効くがんです。
前立腺がんの特徴は非常に進行が遅いことで、発がんしてから臨床がん(がんと診断が確定できる)になるまでには数年かかるといわれています。また他のがんにくらべ薬が効きやすいという特徴もありますので、いたずらに恐れる必要はありません。

前立腺がん検診

前立腺がん検診は次のような流れで行います。

一次検査(スクリーニング検査 : PSA値測定)

①PSA測定---簡単な血液検査です。

PSAが正常値を越えて高い場合、次の検査をします。

二次検査(超音波検査、直腸診)

超音波検査---直腸にプローブを挿入して超音波を行います。

直腸診---肛門から指を入れて前立腺を触診します。

②と③の結果、疑わしい場合は、次の検査をします。

前立腺針生検

前立腺針生検---前立腺の組織を採取して、がん細胞の有無を調べます。

麻酔をするので入院して行います。

治療どのような治療をしていくかは、患者さんの病期、年齢、合併症の有無、希望などを総合的に判断して、方針をきめます。おもな治療法には、1.内分泌療法・薬物療法2.放射線療法3.手術療法などがありますが、このなかのどれかひとつを選択するのではなく、いくつかの治療法を組み合わせて行うことも可能です。そして、医師と相談しながら、最終的な治療法を決めるのは患者さん自身です。
1.内分泌療法・薬物療法
前立腺がんは他のがんにくらべ、薬物療法が非常に有効です。その中心となるのが内分泌療法です。前立腺は男性ホルモンに依存している特異的な臓器なので、この男性ホルモンの分泌を抑制することで病気の勢いを抑えることができます。男性ホルモンは脳から分泌されるホルモンの刺激を受け、精巣から分泌されます。
そこで、内分泌療法では「男性ホルモンが分泌されるのを抑える」もしくは「男性ホルモンが前立腺に作用する時点で抑える」どちらかの方法をとるわけです。

男性ホルモンの分泌を抑制する方法
①LH-RHアナログ(アナログとは類似物質という意味です)
脳から分泌される男性ホルモンの分泌を促すLH-RHというホルモンの分泌を抑える方法です。結果として精巣に男性ホルモンを分泌するように刺激するホルモンがなくなるため、男性ホルモンは去勢したのと同じ状態になります。(効果は去勢と同等です。)副作用としては、性機能の低下、初回に投与したときのみ一時的に男性ホルモンが上昇するなどのことが挙げられます。

②精巣をとりのぞく手術
外科的に精巣を取り除き、男性ホルモンの生成を抑えます。手術に伴う肉体的負担、性機能の低下などが副作用として考えられます。

③女性ホルモン剤
男性ホルモンの生成を抑えます。副作用として性機能の低下、心血管系障害のほか、女性化乳房などの副作用が考えられます。

前立腺に作用する時点で抑える方法
①抗男性ホルモン剤
男性ホルモンが前立腺に作用するのをブロックします。 現在は、LH-RHと抗男性ホルモン剤を併用する治療も行われています。前立腺がんの治療は内分泌療法が主体ですが、まれに効果がないこともあります。その場合には化学療法(抗がん剤)が使用されることがあります。また女性ホルモンと抗がん剤を結合させた薬が使用されることもあります。

2.手術療法
開腹手術体腔鏡手術があります。
手術の対象者は、一般的に75歳未満の早期がんです。

手術後の合併症には以下のようなものがあります。
・性機能障害(インポテンス)
・尿失禁、傷口の感染
・尿路感染
・陰部のむくみ

3.放射線療法
最近注目されている治療です。内分泌療法によりがんを小さくしてから、限られた部分にのみ放射線を照射する方法です。正常細胞への放射線照射を低下させることができること、内分泌療法と放射線療法とではがんに対する作用が違うので相乗効果が期待できることなどが注目されている理由です。
副作用や合併症として、放射線による一種のやけど、排尿痛や血尿、お尻の皮膚のただれ、直腸からの出血などが主なものとして挙げられます。
そのほかに 小線源療法(ブラキ・セラピー)という治療法があります。 これは「組織内照射」とも呼ばれ、前立腺に放射性の「シード」を永久的に埋め込む治療法です。小線源療法では、がん細胞に直接照射するため、周辺組織や臓器の被ばくリスクを低減でき、後遺症が少ないのが特徴です。 通常、シードは永久的に埋め込まれ、そこから放射線が徐々に放出されます。

前立腺炎

前立腺炎は文字通り前立腺の炎症ですが前立腺肥大症前立腺がんと違って、10代後半から、あらゆる年代層に起きます。

前立腺炎には急性前立腺炎と慢性前立腺炎の2つがあります。

原因はハッキリしないことが多いのですが、慢性前立腺炎は尿道炎や精巣上体炎の放置および不完全な治療が原因になっているようです。細菌の種類も違うようで、急性前立腺炎は大腸菌が多く、慢性前立腺炎はクラミジアや弱毒性の細菌が多いようです。

症状急性前立腺炎は発熱、排尿時痛、頻尿、排尿困難を主症状とし、菌血症にまでいたることがあります。
慢性前立腺炎は陰部の不快感を主な症状とします。
治療診断は尿検査、直腸診(肛門から指を入れて行う前立腺の診察)、採血で行います。
炎症反応が高度な場合は入院して治療を行う必要があります。治療は抗生物質の点滴が主体で回復まで1週間程度を要します。また前立腺は抗生物質の移行が悪いので症状安定後もしばらくは抗生物質の内服が必要です。
慢性前立腺炎の場合、前立腺抽出液中に細菌がいるかどうかを検査します。細菌が確認されれば抗生物質の内服治療を行いますが、細菌がいない場合には生薬や漢方薬による対症療法となります。長時間の机仕事などでは骨盤内が鬱血(血液が循環しにくく滞留する状態)しやすくなりますので、適度な運動なども症状緩和には良いと思われます。